なんでもかんでも金庫にしまう妻

僕の妻は心配性だ。まだ独身だったときは僕が浮気しないために、おはようからおやすみまでの間の行動の全てをメールで報告しないと気が済まなかったし、少しでも僕の帰りが遅かったりすると、僕に何かあったんじゃないか(僕が何かしたんじゃないか)と心配しているという内容のメールが1時間に何十件とくるなんてことはザラにあった。友人からは、「そんな束縛女とは早く別れた方がいい」とか、「そのうち包丁で刺されるぞ」なんてお節介な(?)忠告もあったけれど、何となく別れるのが面倒だったし、結婚でもして一緒に暮らすようになれば、多少は彼女の心配性も治るんじゃないかと、半ば希望観測的な気持ちで結婚に至ったわけである。

だけど結婚しても妻の心配性は変わらなかった。おはようからお休みまでの報告が、行ってきますから行ってらっしゃいまでの報告に短縮されたくらいだ。みんながやっているLINEですら、僕は妻の許可が得られなかったのでできなかった。最近連絡を取っていない女友達や女性の知り合いとLINEで簡単に連絡できるようになったら、僕が浮気するんじゃないかと疑っているらしい。でも最近会社の連絡でどうしてもグループラインに入る必要性が出てきたため、僕は妻に内緒でこっそりLINEを始めた。だけどどういうわけか、その日の夜には妻にバレてしまっていた。仕事で必要なんだ、とどんなに必死で説明しても、妻は泣き叫び納得してもらえなかった。仕方なく僕は、家にいる間は妻にスマホを預けることにした。

それ以来、家にいる間は、僕のスマホは妻の金庫に入れられている。家を出る時に「行ってらっしゃい」と言って妻は僕にスマホを渡す。もちろん中身は妻のチェック済みだ。それだけじゃない。財布もカギも、妻は僕のものはなんでも金庫にしまうようになってしまった。

――結婚は墓場だ、と皆言うけれど、僕の場合、結婚は金庫だな――僕は自嘲気味に笑った。